個人的な感覚でいうと催眠とマジックの相性はそこまで良くはありませんが、状況的にやらざるを得ない人は少なくないと予想しています。

かくいう私も「催眠術をやってくれませんか?ついでにマジックも」と言った感じでオファーが来ます。(ここで大事なのはメインが催眠でサブがマジックであること)

今回はマジックと催眠の相性についての個人的な考えを話します。

マジックと催眠は相性が良いのか?

相性が良いという話をマジシャン兼催眠術師みたいな人からチラホラ聞きますが…実際にはどうなのかって話です。

理論的に考えるなら「部分的にYESであり、部分的にNOである」ってのが結論になります。

影響がある場合と無い場合がありますし、強いて言うなら…

相性が悪いケースの方が多い!

ですね!

まず、前提として催眠は概念によって起こるって説を支持しています。

催眠は「催眠が起こる概念」が相手に構築されることで現象が起こるという考えなのですが、マジックの概念は「トリックによって起こること」であるため、相性が良くありません。

催眠をしたいのに「トリックによって起こっているのでは?」と疑念を抱かれた状態では、催眠現象が起きにくくなる可能性が割とあります。

もちろん、慣れた人であれば、上手く分離してプレゼンすることもできますが、最初から一緒にやらなければそんな手間をかける必要もありません。

マジックと催眠の相性は良くないけど、催眠とマジックの相性は良いかも?

既に述べたように、相手が持つ概念が影響することを考えると、マジックと催眠の相性はよくありませんが、催眠とマジックの相性は良い可能性があります。

要はマジックを先に見せるか、催眠を先にやるかの違いです。

催眠の概念と言いますか、要素として「リアルで起こる現象」があるため、催眠現象を起こすことによって、演者に「リアルな能力がある」という印象を持たせることができます。

つまり、先に催眠をやることで、「本当に人を操る手段を知っているんだ」と思わせることができますし、その後にマジックをしたとしても「もしかすると本当にそいうことが出来るかも知れない」とトリックの存在が疑われにくくなる可能性が高くなります。

これはマジックを演じる上では非常に有利なバイアスなので、積極的にこの効果を狙いに行くのは戦略上アリだと思います。

実際にメンタリストは、オープニングで暗示にまつわる話をしたり、それを利用した現象を最初に軽く見せてから始めることが多いんですよね… これは後にトリックを使ったとしても「実は暗示の効果で起こっているのでは?」と思われることに貢献しています。

マジックと催眠を両方やる場合

個人的な意見としては、催眠は「催眠術」という形の単体でやったほうが効果的だと考えていますが、クライアントの要望としてマジックと催眠の両方をやってほしいってことが多々あります。

この場合は既に述べたように、先に催眠をやったほうが有利であるのは間違いありませんが、いくつか問題があります。

催眠とマジックの時間的性質について

既に両方やっている人には言うまでもありませんが、催眠の方が時間を多く取られます。

最初にまず現象を起こす必要があると考えた時、催眠は初速がどうしても落ちてしまうため、先にマジックを見せた方が見世物としては良いといえます。

マジックは最速で数十秒以内に現象を起こせますし、長くやろうと思えば30分以上演じることも可能です。

催眠はプリショーをしない限り、最初に現象を起こすまでの時間がマジックよりも長く掛かることがほとんどです(FAIなど短時間で現象を起こせるものも一部ありますが、それでもマジックの方が初速は圧倒的に速いです)

また、現象と現象の切り替えが遅く、マジックと比べるとテンポダウンします。

  • マジック:短時間でできる。テンポが良い。
  • 催眠:時間が掛かる。テンポが悪い。

テンポが悪いのも時間がかかるのも演出次第ですが、マジックよりはペースのコントロールが難しくはあります。

どちらかがおまけになりがち

催眠とマジック両方をやろうとすると時間配分的にマジックの割合が下がります。

(個人的な経験でいうと、マジックに割ける時間は全体の1/4~1/3になることが多い)

マジックは短時間でインパクトのある現象をテンポよく起こせますが、催眠は時間を掛ける必要がありますし、現象間のテンポもあまりよくありません。そのため、両立させようとするとどうしても催眠の方が間延びした感じになります。

仮にマジックをメインでやった場合、30分の持ち時間で20分使ったとします。この時点で催眠に使える時間は10分しかありません。そこから、催眠についての軽い説明を始めたとして、1つの催眠現象を起こして終わる可能性が結構あります。

メンタリズムとの相性も良くない?

催眠は構造的にメンタリズムと似ているものの、メンタリズムのパフォーマンスと相性が良いかと言われると微妙と言わざるを得ません。

催眠は「暗示」がベースになっていますが、メンタリズムのパフォーマンスは「暗示」だけで説明できないものが多くあります。

例えばブックテストや人名を当てる現象は、「暗示を利用して当てています」と言うのがかなり厳しいです。もちろん、演出を工夫して如何にも暗示を使いましたって形でできるなら問題はありません。ただ、100%暗示によるものだと信用させることができないと、その後に催眠誘導を行う際の効率は落ちます。

もちろん、暗示をテーマにした現象だけで固めれば解決しますが、このテーマで行える現象はいまいちインパクトに欠けると言いますか…地味なんですよね…

なので、メンタリズムのパフォーマンスでは、下手に催眠という単語を入れないほうが良いと個人的には考えています。

結論

  • 基本的に催眠とマジックの現象は相性は悪い。
  • 両方をやる場合は、催眠を先にやった方が良い。

オープニング

最近出た『ダリアン・ヴォルフの奇妙な冒険』で紹介されているようなオープニングを先に挟んでおくのは有効です。

詳しい内容は実際に書籍を読んで頂くとして、暗示を使った現象と言うか、実例を見せながら暗示についての話をする感じです。これはルーク・ジャーメイが似たようなことをやっていますし、噂に聞く限りメンタリストDaiG○もディナーショーでやはり似たようなオープニングを使っていたという情報があります。

ちなみに、私もちょっと演出は違いますが、最初に暗示に関わる実例を示すことがあるので、大体みんな考えることが同じなんじゃないかと思っています。

折衷案として

最初に暗示に実例を示すことで、演者に「暗示を使う人」という印象を残しておけば、催眠を多少後ろに回しても効率が劇的に落ちないと予想しています。もちろん途中で行うマジックやメンタリズムがあまりにもトリック臭いと駄目ですが、ある程度テーマに沿ってさえいれば、誘導に影響が出ない、或いは上手くやれば効率を高めることも可能かも知れません。

パートを明確に分ける

先にマジックをやっていてもパートを明確に分けていれば後半に催眠を持ってきても問題がない場合が多くあります。

マジックの延長でやると効率は落ちますが、完全に切り替えることで、「さっきまでのマジックとは別のことが始まる」と観客の気持ちが切り替われば影響を消すことができます。

切り替えるのはそう難しいことではなく、「ここからは催眠をはじめます」と宣言するだけでも良いですし、より強固にしたければ衣装を替えたり(上着を脱ぐでも可)、音楽を掛けているなら曲を完全に変えてしまう方法もあります。許されるのであれば間に休憩を入れるのもありです。