メンタリストが本来意味していたこと

メンタリストは本来、心霊商法を行う人を指す言葉でした。占いや降霊術を行う人、超能力者なんかもここに含まれ、特に詐欺師とかそれでがっぽり稼いでいる人に対する蔑称でもあります。

海外ドラマ『メンタリスト』をご覧になったことがある人であれば伝わりやすいと思いますが、主人公パトリック・ジェーンが CBI に協力する前の職業が正にメンタリストです。

「インチキ霊能者=メンタリスト」ですね。つまり、パトリック・ジェーンは正確には「元・メンタリスト」になります。

なお、この作品では「メンタリスト」って単語が 2 回位しか出てきません。それも「流石メンタリスト」(意:やるぅ!)の様な皮肉や、「メンタリスト。口だけ野郎。」とストレートに罵倒されているシーンだけなので、当時のアメリカでメンタリストがどの様な立ち位置だったかが垣間見えます。

イギリスでは今でも「メンタリスト」は蔑称として使われることがあるそうです(後述のダレン・ラウンのブームがあったにも関わらず)。

日本のドラマ『トリック』に出てくる、自称霊能者も本来のメンタリスト…といえば伝わる人が多少増えるかも知れません。

現代のメンタリスト

心霊商法詐欺師などが使っていたテクニックを舞台芸術に利用したパフォーマーをメンタリストと呼びます。

要は芸人、奇術師の一種です。

かつては詐欺師を、現在では芸人(奇術師)或いは詐欺師を意味します。
(やや特殊ですが、マジシャンと区別する際にメンタリストと呼ぶ場合もあります)

上述のドラマ『メンタリスト』や ダレン・ブラウン の番組が流行する西暦 2000 年前後までメンタリストを名乗る人は少なく、日本ではメンタリスト DaiGo 氏がメディアに出るまで 1人もいませんでした(※)。

元々あまり良い意味で使われる名称ではないため、当然といえば当然です。

そもそも DaiGo 氏も ダレン・ブラウン から始まったメンタリスト・ブームに乗っかる形でメンタリストを名乗り始めたようですしね?

※実際には20世紀初頭にメンタリストと名乗り欧米で活動していた日本人がいました。D氏のプロデューサーは当時オンラインで検索して日本国内に「メンタリスト」を名乗って活動しているパフォーマがいなかったことから「メンタリスト」の肩書を採用したと語っています。以上のことを考えると D氏は 21世紀以降にオンライン上で名乗り、なおかつ日本を主な活動地域としているという条件の下で「日本唯一のメンタリスト」ということになります(多分)

〇〇メンタリストという意味不明の存在:

そう考えると「○○メンタリスト」って存在が如何におかしいかが分かるかと思います。

成り立ちから考えるとメンタリストは「芸人」或いは「詐欺師」と置き換えの出来る言葉です。

実際にいるかは分かりませんが…

  • ビジネス・メンタリスト→ビジネス芸人 or ビジネス詐欺師
  • 恋愛メンタリスト→恋愛芸人 or 恋愛詐欺師
  • 〇〇メンタリスト→〇〇芸人 or ○○詐欺師

と言った具合になります。芸人に置き換えると ビジネスをテーマにした芸をするのかな?と思いますし、詐欺師に置き換えるともうただの犯...(ry

だからこそ、シンプルに「メンタリスト」と名乗る方が良いのですが…差別化をしたいという気持ちも分からなくはありません。

メンタリストを表す造語では『超魔術』と『ブレインダイバー』以外は特に定着しなかった印象があります(※)。

※『超魔術』のMr.マリックはマックス・メイビン(アメリカの著名なメンタリスト・マジシャン)のネタを丸パクリして不況を買ったというエピソードがあります。

世界最高のメンタリスト?:

世界最高のメンタリストとも称される ダレン・ブラウン / Derren Brownは「メンタリスト」と名乗ることは少なく、普段は「サイコロジカル・イリュージョニスト」と名乗っています(※1) 。

過去にインタビューで「マジシャン」を名乗るのを好んでいると語っており、世界最高と称されるメンタリストですら「メンタリスト≒マジシャン」という認識があることが分かります。

ただ、 TED では「メンタリスト」を名乗っていたことから、求められるキャラクターに合わせてはいるようです。これは、奇術師がカードマジックをする際に敢えて「トランプ」と呼ぶのに似ているかも知れません(※2)。

※1 BBC版『SHERLOCK』の s3e1 でダレン・ブラウンが本人役で出演し、レストレード警部から "Derren Brown?" (日本語字幕及び吹替版では「催眠術師」)というセリフが出てきたり、『ドクター・フー』では宇宙人の存在を隠すためにダレン・ブラウンがやったことにされたりと、英国では大掛かりなドッキリや催眠術をやる人としても有名です。
※2「トランプ」は日本での俗称で、正式名称はプレイング・カード。英語圏では単にカードとも呼ばれる。トランプ本来の意味はあるゲームにおける「切り札」。

日本のメンタリスト事情:

日本でメンタリストと言えば 某D氏 なわけですが、日本のメンタリズムブームでは「メンタリズム=心理学」と言った認識が深く根付いてしまいました。

これで心理学に興味を持った人、大学の専攻にした人もいたと思います。

しかし、どんなに心理学を学んでもメンタリズムができるようにはなりません…

(メンタリズムのパフォーマンスはどちらかというと「超心理学的」であり、心理学の文字は入っていますがほぼ別物です)

メンタリズムとは

古来より詐欺師や奇術師、占星術師などが使っていたテクニックを統合しパフォーマンス向けに改良したもの、これが現代のメンタリズムに対する妥当な説明になります。

メンタリズムのパフォーマンスで(メンタリストが)やることの多くが読心術やテレパシー、予言、千里眼、サイコメトリーなど、超常現象の再現が多いのは、元々が霊能者を騙るための手法だったからです。

一説によればメンタリストという単語の初出は 1800年頭頃で、メンタリズムは 1900年初頭と 100年くらい後に生まれた単語とも言われています。

※一部の辞書で "Mentalism" を引くと「唯心論」と出てきますが、唯心論は心の充実を目標とし、その結果として出来るとされるデモンストレーションが実際にはトリックが使われる所を含め正にメンタリズムであり適切な訳だと言えます。

著名なメンタリストの説明

セオドール・アンネマン曰く:

1900年初頭のメンタリストであり、現代のメンタリストにも使われる多くの手法を発案した "セオドール・アンネマン (Theodore Annemann)" は以下のように語っています。

"Mentalism is the grown up form of magic."

適当に翻訳すると「メンタリズムはマジックが成長した形である」。彼の主張ではメンタリズムはマジックの派生になります。

メリット・マッキニー曰く:

映画『グランド・イリュージョン』に登場するメンタリスト、メッリット・マッキニーは劇中でこう語っています。

「メンタリズムは科学では無く娯楽の類」
「ほとんどトリックで少しの科学、経験に基づく推測が最も適切」
「プラス直感とたまに頭の中で声がする」

ほとんどトリックとありますね。なお、一番最後の文はふざけて言っていますが、割と大事な要素だったりします。

メンタリスト DaiGo 曰く:

日本でメンタリストと言えばこの人ってくらい名称を独占している印象がありますが、そんな彼もメンタリズムについてはこの様に説明しています。

「すべての超常現象は科学的に再現できる」を信条に、かつて超能力や超常現象と呼ばれたものを科学や心理学などにもとづいて解析し、再現するパフォーマンス"メンタリズム"を行う

メンタリズムの本質は奇術

上述した3人の主張は全て共通しています。メンタリスト DaiGo 氏のメンタリズムに対する説明は少し違ったように感じるかもしれませんが、 Wikipedia に載っている「奇術」の項目にはこう書かれています。

奇術 (きじゅつ)は、人間の錯覚や思い込みを利用し、実際には合理的な原理を用いてあたかも「実現不可能なこと」が起きているかのように見せかける芸能。通常、観客に見せることを前提としてそのための発展を遂げてきたものをいう。

  • 超常現象=実現不可能なこと
  • 科学や心理学など=合理的な原理

この様に置き換えることが可能であり、奇術とメンタリズムは本質的に同じであると言えます。

特に超能力や霊能力などの超常現象を再現し、相手にその存在をわずかにでも信じさせることを目的としたテクニック、及びそれをベースとしたパフォーマンスがメンタリズムです。

日本最初のメンタリストが最初から本質を説明していたわけですが、日本では「メンタリズム=心理学のテクニック」と非常に偏ったイメージが持たれています。

奇術(マジック)との違いは?

本質は同じものですが、目的が違うため考え方や手法に差があります。(詳しくは以下の投稿に)

メンタリズム≠心理学

メンタリズムといえば「読心術」と言われるくらい、相手の心を読んだようなパフォーマンが多くあります。 そして、読心術は心理学ではありません。

"Newtonライト2.0 『心理学』" では以下のように書かれています。

「心理学とは,人間の心理や行動に関する法則を明らかにしようとする学問です。このとき,科学的な方法を使ったものでなければ,心理学とはよべません」。たとえば心理テストや読心術には,科学的な方法ではなく,個人の主観や思いこみにもとずいたものがすくなくありません。こうしたものは,心理学とはよべないのです。
また,心理テストや読心術は,特定のだれか(たとえばあなた)の性格や考えをいいあてようとします。一方,特定のだれかではなく,だれもがもつ心の普遍的なはたらきをとらえようとするのが心理学なのです。

心理学は誰もが当てはまる特徴を科学的に研究する学問です。その知識があれば相手の心理的な傾向は読み取れるかもしれませんが、相手の初恋の人の名前や具体的な数字を当てるのは心理学ではほぼ不可能です。

心理学はメンタリズムを構成する要素の1つであり、現代では演技に説得力を持たせるためのツールと言えます。

メンタリズムで重視されるもの

最も重視されるのは「リアリティ」です。

「もしかしたら、この人本当の能力でやっているのでは?」と思われることがメンタリズムの目標になります。マジックが芸の披露を目的とするのに対し、メンタリズムは自己の存在価値を高めることが目的となります。

心理学という名のツール

元は「霊的な力」や「超常現象」として、現代では「心理学」と称して読心術などが行われています。

以前は霊能力の様な超常現象の存在が読心術などができる理由として説得力があったわけですが、科学が発展した現代でそれは通用しません。

そこで「超常現象」の代わりに「心理学」がメンタリズムに説得力を持たせるためのツールとして使われるようになったと考えられます。

既に述べたように読心術は心理学とは別物であり、本質はトリックです。しかも、その手法は 400年以上前から現代に至るまでほとんど変化していません。

心理学である必要はない

仮の話ですが…今後「体内から発せられる微弱な電波」が読心術をする上で非常に有用かもしれないという研究が出たとします。そうなった場合、恐らく世のメンタリストは「心理学的に〜」みたいな演出はやめて「微弱な電波が発せられることで…」と言い始めるはずです。

もしかしたら、それを受信するための小道具を用意するかもしれません。
(あれ?これ何かのビジネスに似ていますね?)

メンタリストにとって「霊の存在」や「心理学」は、あくまでも自分たちの価値を高めるための看板であり、それは時代によって変化します。これは別に「波動」でも「暗黒物質」でも何でもよくて、説得力を持たせることさえできれば採用されます。現在でも「霊」や「オーラ」は使われていますし、馴染みがあるかと思います。

近年のメンタリストが心理学に詳しい、或いは詳しい風にしているのも、やはりリアリティを出すためと言えます。(※単純に心理学が好きって人も少なくありません)

個人的な予測ですが、最近は認知科学分野でカール・フリストンの「自由エネルギー原理」や「予測コーディング理論」が注目されてきているため、今後これらの単語を使う人が増えるかも知れません。

「心理学的に〇〇という傾向があります」→「ベイズ的に考えて△△を選ぶ確率が高いです」みたいな感じになるんじゃないかと…(適当)

メンタリストの心理学離れ

海外メンタリズム事情を見ると、「心理学」を主張するメンタリストは減少傾向にあります。

というのも、やはり読心術と心理学はそこまで相性が良くないからです。心理学で分かるのはあくまでも傾向で、相手が思い浮かべた物をズバリと当てる方法、根拠とするにはエビデンスとしては弱すぎます。

近年は心理学的な読み物が流行っているため、その限界値、できること/できないことが知れ渡ってきているのも原因かも知れません。

認知科学や神経学の発展、実験方法の見直しに伴い、以前に提唱された説が否定されてるケースが増えてきたのも、心理学をテーマにすることのリスクになっています。

「あのメンタリストが言ってた話、ここ数年の実験結果だと否定されているけど、実は心理学をよく知らないんじゃないか?」と思われるのは良くないですし、更に「彼が言っていることは全く信用ならない…」となってしまったらメンタリストの完全敗北です(メンタリストの最終目標はどんな形であれ、信頼を得ることなので…)

自己啓発本などで出てくる心理効果のエビデンス怪しいよって話については以下のサイトが良くまとまっています。

ピグマリオン効果やダイニング・クルーガー効果など、メディアやSNSでよく見かけるものも含まれていますね。

似たような投稿が日本語でも出たので、気になる方はそちらも参照してください。

ピュア・メンタリズム

ここ数年で海外で発表されたメンタリズムの手法は物理的な仕掛けに依存しないものが増えているのもリアリティを重視した結果であると予想されます。

種も仕掛けもない所謂「ピュア・メンタリズム」は、考案者本人ですら完成までに7年掛かったなんてことがあるほど習得が困難な手法もあります。その代わり、強いリアリティを持たせることができるのが強みです。

なんせ、実際に本人の能力でやっているわけですし…リアルであればリアリティの有無を心配する必要はありません。

ただ…ピュア・メンタリズムの手法を発表している人がショーでは全くそれを使わない…なんてこともあります。予めこういうことが「できます」と宣言することで、あたかもスキルがあるように見せかけている…かは分かりませんが、これもまたメンタリズム的です。

メンタリズムを学ぶには

ここまで読んだ方は既にお気づきかもしれませんが、心理学をいくら勉強しても読心術などのメンタリズムはできません…メンタリズムを覚えたければ心理学ではなく、メンタリズムを勉強すべきです。

奇術とほぼ同質であるため、「メンタル・マジック」と呼ばれる分野を中心に調べてみるのがおすすめです(厳密にはメンタル・マジックとメンタリズムは別物ですが、原理や方法は共通する部分が多くあります)

メンタリストは詐欺の手口から派生しているため、その手法を詳しく知ることも役に立ちます。

メンタリストの言う「心理学的手法」は元々詐欺師がよく使っていた手法でもあり、現代では研究されマーケティングの方法として一般的に使われています。なので、メンタリストよりもマーケターや営業職をやっている人の方が実は詳しいってことも珍しくありません。接客業のプロもその辺のメンタリストを凌駕する観察力やきめ細やかさがあります(あるマジシャンいわく、自称メンタリストよりも接客のプロの方がよほどコールド・リーディングが上手い)

当サイトに参考になりそうな資料をまとめたページがあるので興味のある方は是非…

(※一部会員向けコンテンツが含まれています)

自分がメンタリストを名乗らない理由

メンタリズムの研究家、或いはメンタリズム・パフォーマーを名乗って活動することはあっても、私は自らをメンタリストと呼ぶことはありません。

他の人からそう呼ばれることにそこまで抵抗はありませんが、蔑称でもあることを知っている身としては名乗りにくいわけです。日本人が「ジャップ」と名乗る様なものだと言えば伝わりやすいかもしれません。

「メンタリスト」を名乗ったほうが確実に得をするって状況になれば名乗る可能性はありますが、やはり実情というか歴史を知っている身としては、メンタリストを名乗ることで馬鹿だと思われるリスクが気になってしまいます。

ただ、間違いなく言えることは…私はメンタリズム的なアプローチは非常に好きだということです。好きだからこそ研究し、他の人から「研究家」と紹介されることが増え、そして自分でも名乗っているわけですしね…?

特に「あらゆる手段を使い、超常現象が本当にあると僅かにでも信じさせる」行為自体に惹かれます。そのためだけに設計された手法や演出に感心させられますし、実際に行う時はある種の完全犯罪を擬似的に行っているような、僅かな罪悪感と高揚感が入り混じったなんとも言えない感覚を得られます(あれ?やばいこと言ってる?)

私の場合、正確には「超常現象の再現」ではなく「人間の可能性」、つまり「人間は工夫次第でここまでのことができる」ことを示すプレゼンテーションで行っていることもあり、ほとんど嘘をつかないスタイルにしています。そして、この嘘をつかずに相手の思考を誘導するのがまた、駆け引きの要素があって好きなんですよね…(あれ?やっぱりやば…ry)

心霊現象や占星術に対して否定的であると思われがちですが、特にアンチ・オカルティズムではありません。むしろ、自称霊能者の内弟子だったことすらありますし、本物の超常現象や奇跡を見たいと思っています。

本物が本物であることを知るために、それ以外のあらゆる手法を研究しているとも言えます。

ハリー・フーディーニに共感を覚えます。

ちなみに、最近使っている「メンタリズム研究家」で上にあった単語の置き換えをすると、「芸研究家」或いは「詐欺研究家」になります。これは大正解なので、ここ最近の肩書の中では比較的気に入っています。

追記:

2020年10月に日本語版が出た『トリックといかさま図鑑』が正にメンタリストの歴史を表しています。