表情分析の中で特に有名なものといえば、ドラマ『ライ・トゥ・ミー』でおなじみのポール・エクマンの微表情分析ですね!

自称メンタリストがオススメする書籍にもちょいちょい彼の書籍が挙がりますが、現在の心理学や神経学的にはほぼ否定されており、更に言うと、微表情だけでなく、普通の表情分析も実はほとんど意味がないと考えられています。

TSAの職員は表情や行動から分析する訓練"SPOT"を受けましたが、摘発率の向上は有意義に上がらず9億ドルの税金が無駄にされたと言われているくらいです。

詳しい話は、『情動はこうしてつくられる──脳の隠れた働きと構成主義的情動理論』の序章〜第3章にかけて書かれているので、詳しくはそちらを読んで頂くとして…今回はその内容を大雑把にまとめてみました

まず実験を…

次の人物の写真の感情を想像してみてください。

3・1の、恐怖で悲鳴をあげている女性の写真を見てほしい。欧米の文化のもとで生まれ育ってきた人のほとんどは、文脈が示されていなくても、たやすく彼女の「表情」から情動を見て取れるだろう。

情動はこうしてつくられる──脳の隠れた働きと構成主義的情動理論 P.82

文中にあるように、恐怖を感じ取れたでしょうか?

私は痛くて泣き叫んでいるように見えましたが…

実験方法に問題がある

選択肢があることがカンニングになっていた

テスト1:

表情分析で使われる質問はストーリーが添えられた1枚の写真に対し、6つ(幸福、恐れ、驚き、怒り、悲しみ、嫌悪)のうちから相応しい言葉を選ぶというものでした。

「この写真の人物はショッキングな出来事を経験しています。相応しい言葉を選んでください」みたいな感じです。つまり、質問自体がものすごくバイアスが掛かりそうな構造になっており、しかも6つから一番近いものを選べばいいだけなので、そりゃ難しくないだろう!って感じです。

別の研究者がこの試験から選択肢を排除し、口頭で答える問題に変えた所、正答率が58%まで低下したそうです。誰でも出来る、ってのがこの実験の要旨だったので、6割を切っているのに「普遍性がある」という結論がおかしいことになります。

テスト2:

もう1つの試験方法では「ストーリーにもっとも合った顔を選んでください」とあり、「母親が死んだばかりで、深い悲しみを感じている」と描かれた状態で2枚の写真のどちらかを選ぶと形式でした。2択かよ!ってなりませんか?

そして、この試験も、ストーリーを載せずバイアスを排除する形に変更、「2枚の顔写真が同じ感情を表していると思いますか?イエスorノー」の2択にした所、42%だけが予想通りの答えになったようです。

更に、その直前に「怒り」という情動に関する言葉を繰り返し唱えた場合、正解率は36%まで下がったことからも、言葉による影響が伺えます。ゴリラが適当に答えた方がまだ正解率が高そうです…

被験者の選定があった

エクマン博士の元々の主張では文化圏の違うニューギニアの部族でも同じ結果が得られる、というものでした。通信インフラがなく、文化の交流が殆どない少数部族でも表情が読み取れると。

しかし、アフリカの奥地で行われた追試、情動語を排してバイアスを除いたも実験では、そもそも表情を3つに分類することしか出来ず、しかもその分け方が単に「笑っている」「見つめている」「その他」で分けられたとあります。つまり、情動を全く知覚できていませんでした。

ところが、先例ではなぜか同じ部族が知覚の分別に成功していたわけですが、試験者による誘導と被験者の選定があったことが判明しています。

二〇一四年後半、ソーターらは意図せずしてこの謎を解いた。彼女らによれば、実験には論文に報告されていなかった、概念に関する知識にまみれたステップが含まれていたのだ。ヒンバ族の被験者は、情動に関連するストーリーを聞いたあと、二つの音声を耳にする前に、登場人物がどう感じているのかを尋ねられた。この課題の遂行を促進するために、ソーターらは「(必要であれば)自分の言葉で意図されている情動を説明できるようになるまで、録音されたストーリーを何度も聞くことを、被験者に許可した」。つまり被験者が英語の情動概念に対応しない言葉を発した場合、負のフィードバックが与えられ、もう一度指定するよう求められたのだ。そして、期待される言葉を提示できない被験者は実験から除外された。しかしこのやり方では、ヒンバ族の被験者は、対応する英語の情動概念を学習して初めて、ストーリーに合った音声を選択することを許されたのと何ら変わりがない。

感情を表す指標はまだ見つかっていない

そもそも表情分析のために用意された写真は役者が作った表情という問題があります。

実際の所、感情と表情には決まった関係性がないと言われており、これはAIによる表情の分析や顔面筋電図でも明らかになっています。

それどころか、脳波測定やfMRI等、脳そのものを観測しても感情を表す普遍的な指標は見つからなかったそうです(更に言うと血圧や呼吸の変化も人やその時の勘定によってまちまちだった)。2万件のメタ分析とかしても一定の指標は見つからなかったそうですしね…

つまり、役者の作られた表情から喜怒哀楽を読み取れたとしても、目の前の人間の感情を表情から読み取ることはほとんど不可能であると言えます。

ちなみに、日本でも前から基本6感情の表情が当てはまらないって話はあり、京都大学の研究結果などが少し前に話題に挙がりました。

日本人の表情がエクマンの理論とは異なることを実証 -世界で初めて日本人の基本6感情の表情を報告-

本書では以下のように結論付けられています。

たとえば心理学者のダッチャー・ケルトナーは、「エクマンの見解と一致する観点は、厖大な量のデータによって裏づけられる」と述べている。
それに対する回答は、次のようなものだ。それらの厖大な量のデータのほとんどは、基本情動測定法を用いて得られたものである。たった今見てきたように、この測定法には情動概念に関する知識が潜んでいる。人間には、ほんとうに情動表現を認識する能力が生まれつき備わっているのなら、情動語を除去しても結果は変わらないはずだが、実際にはつねに変わった。情動語が実験に強力な影響を及ぼしていることにほとんど疑いはなく、このことは基本情動測定法を用いたこれまでのすべての研究にただちに疑問を投げかける。

文化や概念を共有している相手には伝わる?

表情から感情を読み取るのはほとんど不可能と言えますが、逆に自分から特定の感情を表現した場合は相手に伝わるはずです。

もちろん前提条件として、お互いが似たような文化圏での生活経験があり、表情のテンプレートに対して共通の認識がある場合に限りますが…まぁ、この辺はハリウッド映画などが全世界的に上映されていますし、欧米流の感情表現テンプレートであればほとんどの人に伝わるんじゃないかと思います。

当たる可能性はある

付き合いが長く、相手の表情や行動のパターンを熟知しており、なおかつ相手が典型的なタイプであれば、普段との違いから読み取れる可能性もあります。長く一緒にいる恋人や友人、配偶者が相手であればもしかすると読み取れるかも知れません。

ただし、5割近くはハズレるってことを念頭に置く必要があります\(^o^)/

メンタリストが初対面の相手から読み取るのは、よほど相手が典型的なタイプで、警戒心がない人であればって感じですね…!(だからこそラポールを築いて、警戒心を下げる必要があるわけで…)

結局の所、相手の感情や情動に関するリーディングをする際は、ベースラインをまず見極めるという先人の主張が全面的に正しいことになります。だからこそ、パフォーマンスを含め相手のリアクションの傾向を読み取り…ry

眉村流リーディング(?)

※気になる方は眉村神也氏のリーディングセミナーにでも参加してみてくださいm(_ _)m
※最近は社会情勢や本人の体調不良等が原因で全く開催されていませんが…

私が知る限り、再現性があるかは別としてかなり合理的な考え方や手法が使われています。

ちなみに、情動ではなく、単純な快不快は新生児でもアフリカ奥地の部族でも共通して読み取れるんじゃないかって話もありました。(これについても、基本6感情のうち快の感情が1つしかなかったため、単純にソートしやすかっただけなのでは?と疑問が残っているようですが…)

補足:

最初の写真の女性ですが、実際には恐怖を感じていません。というのが、全身が映った写真を見たら分かりますって実験でした。

めっちゃ喜んでますね!!!!!

ちなみに、この本のメインは表情分析云々ではなく、情動が生まれる仕組みについてです。第4章から第13章までが主要な部分であり、第3章までは背景の説明などにとどまっています。