記憶の宮殿(Memory Palace)は記憶術の方法の1つで、場所法とも呼ばれています。

テレビドラマ『SHERLOCK』では「精神の宮殿(Mind Palace)」と呼ばれていますが、これは脚本家か監督がダレン・ブラウンの著書に書いてあったの引用したことによるそうです。ただ、ダレン・ブラウンの著書では「記憶の宮殿(Memory Palace)」と書かれているものしか見つからなかったので、恐らく記憶違いで名付けられたんじゃないかと私は考えています。

著書の題名"TRICKS of the MIND"からマインド(MIND)と混同したかも知れません。

少し前に、新たな寄稿者Saito氏(そういやなんでローマ字なんだろう?)にWoody AragonのMemorandumと呼ばれるスタックを見せてもらい、興味を持ったため私も書籍を購入しました。そして、このスタックはメモライズドデックの一種で記憶する必要があるのですが、書籍内で記憶術に関する内容が記載されていたことに触発され今回の投稿を書く流れになりました(゚∀゚)

本が届いた日に早速26枚を記憶の宮殿に放り込んで記憶しました。所要時間は記憶の宮殿を作りながらで約15分ってところです。(※Memorandumはハーフスタックでのルーティンが多いため、26枚の順番を記憶するだけでも使えます)

ちなみに、内容は以前書いた『メンタリズムと記憶術』とあんまり差は無いですね…その時よりもやや詳しくは書いていますが…

記憶の話

通常、人間の短期記憶は7±2個くらいのまとまりしか記憶できません。しかし一瞬見ただけ、一度読んだだけでで全てを覚えている人が極稀にいます。彼らはどの様に記憶しているのでしょうか?

このケースでは主に2種類の記憶が使われています。映像記憶と、宣言的記憶です。

映像記憶は短期記憶の一種で、一時ワーキングメモリの視空間スケッチパッドという概念がありましたが、ここで言うのはイメージを記憶する程度の意味だと思ってください。

宣言的記憶は長期記憶の一種で、意味記憶とエピソード記憶が含まれます。言葉にして表せる記憶だから「宣言的」記憶です。

まず、イメージの記憶容量については諸説ありますが、認識できる範囲であればほぼ無制限とも言われています。記憶の保持時間は個人差があるものの、かなり記憶しておくこともできます。そしてこの記憶を保持していられる人が、一瞬見ただけでも覚えていられるタイプです。

宣言的記憶は比較的多くの人に経験があると思います。教科書など学校で覚えたことはほぼこの宣言的記憶です。意味記憶とエピソード記憶の名前からわかるように、人は意味のあるものやエピソードがあるものを記憶しやすい性質がありあす。

語呂合わせで年号を覚えるのはとても理にかなった方法ですし、歴史の授業などでも単に年号を覚えるよりもその時に起きたエピソードを一緒に覚えたほうが効率的なのもそのためです。学校の教師でやたら話が脱線する、或いは無駄な知識を語りだす人がいますが、そういう授業の方が何となく内容をよく覚えているのもこのためだと思われます。

私が以前に塾講師をしていた時、トリビア的な関連項目について多めに解説していたのも、記憶の定着率を上げるため意図的してやっていました。本当ですよ?

生徒は担当科目(化学)に限って言えば、偏差値50程度から1年でセンター試験で満点、
その直前の模試では東大理2でA判定が出るくらいの効果はありました。最終的に第一志望の大学に進学できたので割と良い仕事をしたと思っています(自画自賛)

話がそれました…次は記憶の宮殿に関してです…

記憶の宮殿/Memory Palace

場所法とも呼ばれる記憶術…って話は最初に書いたのでもう少し具体的な話を。

場所(自宅や実際にある場所でも、架空の場所でも良く、体の部位に配置する方法もある)を思い浮かべ、そこに記憶したい対象を置く方法である。「記憶の宮殿」「ジャーニー法」「基礎結合法」とも呼ばれる。記憶したい対象を空間に並べていく方法である。人間は例えば他人の家に行った場合でも、どこに何があったかは比較的よく覚えており、その性質を利用する。記憶したい対象が抽象的なものの場合は、置換法を使い、イメージしやすい対象に変換してから記憶する。

この方法は海馬にある場所ニューロンの特性を利用している。場所ニューロンは名前のとおり、場所の記憶を司る。場所の記憶は動物にとって重要なため、長期記憶に保存されやすい性質を持っている。

その長所としては記憶の保持期間が他の記憶術と比較して著しく長いこと。欠点としては、一つの場所にあまり多くの情報を詰め込みすぎると混乱をきたすため、わずかな情報しか入れられないということ。そのため、充分な情報を詰め込めるだけの場所の確保に手間がかかるということである。世界記憶力選手権の世界トップ選手は数百個程度のイメージを競技中に記憶している。

ウィキペディアにほとんど載ってました…今更ながら今回の投稿はなくても良かった気がしています…(次の本にも歴史から作り方まで詳しく書かれているので、そちらも参照してください。)

作り方

場所法とも言われるように、まず場所のイメージを作ります。そしてそれぞれに記憶したいものを置けるチェックポイントを作ります。

条件:チェックポイント同士が近すぎないこと

上の引用にあるように、多くの情報を詰め込むと混乱がおきるため、チェックポイントはある程度離れている必要があります。

この条件さえ満たしてるのであれば、家の近所でも、よく行く場所、通学、通勤ルートでも構いません。ただし店舗や建物などは入れ替えがあるので、可能であれば外観ではなく配置に対してチェックポイントを決めたほうが良いです。

建て直しや、店舗の入れ替えがあった場合、実際にそこを歩いた場合にイメージと現実に食い違いが起きるため、あまり良くないと言われています。以前に住んでいた地域や、もう訪れることがない記憶の中にしか無い土地などであれば特に問題はありません。(私は以前に住んでいた海外のマンションの周囲のイメージを使っています)

チェックポイントの距離に関しては、可能であれば部屋ごとくらいの距離があったほうが良いってのが通説です。私の場合は3人がけのソファーに並べて置いてしまうことがありますが、この場合は明確に3つのものが分けて記憶できるよう、それぞれに別のイメージを重ねています。

とりあえず作ってみて混乱しそうだったら徐々に距離をおくのもありです。

記憶する

場所のイメージを作ったら、次は記憶の定着方法です。

先程用意したチェックポイントに、覚えたいものを置くだけです。ただ単純に置くだけでは印象が薄く記憶が抜け落ちやすいので、誇張表現やショッキングな内容に変形すると尚良いです。

エログロ大歓迎!興奮するもの嫌悪感を抱くイメージであればあるほど、より記憶していられます。

なるべく感情を揺さぶるもの、出来れば匂いや音までも想像できるものを置いてください。イメージは直感が最優先で、最初に思い浮かべたものが後になっても苦もなく思い出すことができます。

覚える速さは、イメージを作る速さに比例します。

メモライズド・デック

カードを記憶するためには、カード52枚のイメージを作りそれをチェックポイントに置く方法、カードそのものをチェックポイントに置く方法の2種類があります。もちろん前者のほうが圧倒的に簡単で早いのですが、カードのイメージを作るのに苦戦する人が多いと思います。私も苦戦しました。

カードのイメージ

これに関してはある程度のルールを決めておく方法があります。私の場合全て擬人化しています(擬人化はドミニク・オブライエンが推奨している)。

数字子音置換法と呼ばれる方法を使いイニシャルを決めて、そこからカードのイメージを作っています。

  • 1:i or l
  • 2:n
  • 3:m
  • 4:r
  • 5:f or v
  • 6:b
  • 7:t
  • 8:h
  • 9:k or g
  • 10:s or z
  • JQKはそのまま
  • スペード:S
  • ハート:H
  • クラブ:C or K
  • ダイヤ:D

このルールに当てはめるとカードそれぞれでイニシャルができるので、それに当てはまる人物をイメージすることにしています。なお日本人のイニシャルには全く当てはまらないものもありますし、カードによっては別のイメージがある場合もあります(映画や小説、アニメ、漫画のキャラクターが多いのはそのためでもあります)。別のイメージがすっと出てきた場合は、そのイメージを利用し、イニシャルから直ぐに連想できた場合はそちらを使います。

最初のイメージ、直感が大事です。

なお、私は数字子音置換法を使っていますが、日本語に向けた数字仮名置換法ってのもあります。

1=あ行、2=か行、3=さ行....0=わ行(+ぱ行)って感じですね。

詳しくはウィキペディアにもあるので、興味のある方はそちらも参照してくださいm(_ _)m

ちなみに、擬人化は必須ではなく、15→LF→葉っぱ(LEAF)の様に物でも全く問題ありません。

枚数目の問題

記憶の宮殿、場所法のメリットは順番を覚えるのが非常に早いこと、記憶の保持期間が長いことが挙げられますが、特定の順番のものを思い出すのが難しい問題があります。

メモライズド・デックを使いこなすためには前後を覚えているだけでなく、それが何枚目なのかを記憶しておく必要があります。

これにも幾つか方法があって、記憶の宮殿のチェックポイントにそれぞれ番号に関するアイテムを置くことで、番号と一緒に覚えることができます。

私の場合は、数字子音置換法で1〜52番のイメージを別に作り、カードのイメージと一緒に数字のイメージを置くことで解決しています。

なお、通常の場所法でも5箇所おきに目印をおいて、そこから数えらえるようにする工夫があります。

最大の問題

記憶の宮殿でメモライズド・デックを覚えることの最大の問題は、その宮殿がそのメモライズド・デック専用になってしまうことです。普通は記憶の宮殿は汎用性が高いもので、ランダムなカードを覚えたりするのに使いますが、メモラズド・デックを覚える場合は枚数目まで同時に覚える性質上、かなりの容量を食います。

実際には同じ宮殿で、別のカードを記憶することも出来るのですが、元々あるメモライズド・デックのイメージに引っ張られやすくなるため、可能であれば専用にした方が良いと私は考えています。

私の場合、ネモニカ・スタックで元々あった記憶の宮殿を1つ使い潰しており、新しく作ったメモリーパレスもMemorandumで専有されつつあります。

他の記憶術

物語法

自分のよく知っている物語(映画など)、或いは自分で作ったストーリーに記憶したい対象を登場させる方法です。。

メモリーパレスと違い、場所ではなく時間軸に記憶したい対象物が配列されます。また、時間軸に対して記憶するため、対象物が多いと順番を特定するのが大変です。

アルファベットを記憶するのに、ABCの歌で覚えている場合、10番目のアルファベットが何かと聞かれてもすぐに思い出せまんし、後ろには行けても前に遡るのが難しかったりします。毎回アルファベットをAから言って数えているかと思います(゚∀゚)

元素周期表を語呂合わせで覚えている場合とかもですね…試験では表(場所)を覚えていた方が便利ですが、最初はそんな事できないので、テストが始まったらまず余白に周期表を書く人は結構いる気がします。

頭文字法

頭文字を取り出して覚えるタイプです。
例:NSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs)、MOF(multiple organ failure)、CERN(Conseil Europeen pour la Recherche Nucleaire)、

ピット・ハートリングの某ルーティンでも頭文字を使った方法が解説されていますね(本人は使ってないんだっけな?)

気がついたら結構な長さになっていたので、この辺で終わります…(゚∀゚)
(記憶とか学習の話は大学の専門にも関係あったので、割とずっと話せそうな雰囲気がありますね!)