「マジックをしてる方は楽しいの?」という質問がありました。

私の答えは間違いなく「イエス」です。

これはマジックをする動機も関係しているのですが、私のマジックをする動機は承認欲求に基いていると感じています。

「オレの歌を聞けぇ!」みたいなのと結構似たようなものです。

不思議なことを起こして見ている人をモヤッとさせたい、見ている全員の思考を停止させたい、見ている人を黙らせたいというのが根底にあります。

「他人を楽しませたい」等と言う人もいるかもしれませんが、私から言わせればそれは外観を取り繕った対外的な発言です。

ミュージシャンを見て下さい。彼らはまず第一に「自分の音楽を聞いて欲しい」で、第二に「それで楽しんで欲しい」です。

最初から楽しませることを目的に歌っていると感じる人はあまりいません(独断と偏見たっぷりなのは承知しています)。

この辺が、マジックは芸術ではないと考える部分でもあります。

デビッド・クローネンバーグの言葉を引用しますが

「芸人は、あなたがまさに望んでいるものを与えてくれます。もしあなたが古い歌を聴きたいと思えば歌ってくれます。」

「芸術家は、あなたが今まで欲しいとも思わなかった「何か」をあなたに与えてくれる人です。それは、知る以前には欲しいとも思わなかったけれど、一度知ってしまったら、次回からは欲しくてたまらない「何か」です。」

芸人と芸術家の違いは、見ている人と演じる人のどちらにウェイトがあるか、また演じている方がどれだけエゴをさらけ出せるかの違いだと私は解釈しています。なので、私はマジックをするときには「凄いことが出来るので見て欲しい。そしてそれで驚いたり、不思議な感覚を味わって欲しい」と思ってやっています。

観客が見たいものを見せているのではなく、自分がやりたいものが結果的に観客の見たいものになるのがベストです。

そういうわけで、安易に流行りモノに手を出すのをあまり好みません。

と言いつつ、ジャーメイの新作とかを軽率にやっていますが…ここで言う流行りというのは、「昔クリーニング屋で働いていて…」ということです。

受けるから取り敢えずアンビシャス・カードやろうとか、客が見たいと言った現象をやり始める演者は芸人気質なのだと思います。

別に芸人が悪いわけでは無く、むしろマジシャンとしてはそちらの方が主流ですし、正常なあり方と言えるかもしれません。

単純に私がエゴティズム的でありナルシシズム的なだけとも言えます。そういう自覚もあります。

私が演じる基準は、自分が見て不思議だと思うか、自分が見て良いと思えるかです。自分がやりたいこと、好きなことを他人に半強制的に見せつけているわけです。

 

そんなの楽しくないはずがありません。

 

マジックをやっていて楽しいか?という質問に対して「むしろ何故つまらないと思えるのか?」という気持ちになります。

つまらないと思っているならやらなければ良いんですよ。自分が良いと思えない物を人に見せるのは失礼だと思いませんか?

自分が描いた下手くそな絵を人様に喜々として見せることが出来ますか?(注:私はネタとして美味しいので見せれます)

ましてやそれでお金を貰っているのであれば、自分が良いと思ったもの、納得したものを提供したいと言うのが普通の感性なのだと思っています。

もちろん、クライアントの強い意向があるのであれば出来る限りそれを尊重すべきですがね… あまり強くないディレクションしかない場合は、なるべく自由にやろうと心がけています。ウケ狙いよりもまず自分がどういうキャラで見られたいのかを優先します。

ちなみに、自分が見られたいキャラは単純に「変わった人」或いは「不思議な人」なので非常にハードルは低かったりします…(^ρ^)

それもあってか一緒に仕事をした方や、マジックを見てくれた方々からは「ヤバイ人」「頭のおかしい人」「凄い人」「人間ではない」「キモイ」「怖い」「都市伝説」という意見を頂いています。

 

正に狙い通りですね!(適当)

 

役者の方が以前に言っていましたが、「役を演じる上で、それを恥ずかしいことだと感じるなら、その人は役者に向いていない」だそうです。

確か…ラジオの投稿で「役を演じる上で恥ずかしいと感じることはありませんか?」みたいな質問が役者志望(?)の人から来た時に言われていた言葉です(随分バッサリといった気がしますね…)

プロ・アマ問わず、人前でマジックをするならその人は既にマジシャンです。

もしマジックをする事に抵抗があったり、何か特別な理由付けをしないと出来ないのであればマジシャンに向いていないのかも知れません(練習不足でやりたくないと言うのは除きます。練習すれば解消されますし…)

まぁ、マジックの楽しみ方は人それぞれだと思います。マジックのタネを知ることに楽しみを見出す人、コレクションすることに喜びを感じる人、指先の技術を上げることに満足感を得る人がいるはずです。他には現象を考えるのが好きな人、マジックを作るのが好きな人もいますね。

今回もあくまで私の一意見によるものですが、マジックをしていて楽しいと言うのは間違いないと思っています。