パフォーマンスをやっているとチップを貰えることがありますね。

私は基本的に出演料だけで十分だと考えていますし、「事前にチップは要らない」と言うくらいで、チップについてあまり真面目に考えたことはありません。

ただ、出演料がない環境でチップだけを頼りにしている人にとってチップは貴重な収入源であること、またモチベーションの維持に強く影響することは理解しています。

ということで、今回はチップについて軽く考えてみました。

チップについて

自分の経験

全く当てになりません\(^o^)/

  • 人前で立って話したらマジックを見せる前に貰えた(ポチ袋入の2000円)
  • オープナーをやった時点で貰えた(2000円札!)

これらは極端な例ですが、他のパターンでも大体2000円を渡して来る人が多いので、この辺が相場なんですかね?

アメリカのようなチップ文化が無いから稼げない?

渡米歴が無いので正確なことは言えませんが、アメリカの路上パフォーマンスでのチップ相場は1〜2ドル程度だと聞いています。チップ文化があるからこそ、相場が存在し、それを大きく超えた額が出ることは無いようで…相場を知らない人が多い日本のほうがチップで得られる額が大きい可能性があるわけです。

なので、「チップ文化が無いから稼げない」って主張は演者本人の問題を文化という話にすり替えているだけな気がしています。

そもそも、日本にも心付けという文化がありますしね?老舗旅館などをよく利用する人であればポチ袋にお札を入れて常に持ち歩いている人もいます(上述の例が正にそれ)

実際は相場がよく分からない(ぉぃ)

アメリカのチップ相場が安いって話は聞きますが、イギリスではまた別の話があります。こちらはもう少し近い人物から聞いた話で、ブリストル(イギリス)在住の知人の弟がマジックバーでバイトした際に、一晩で日本円にして約20万円のチップを稼いだってのがあります。

店の規模や回転数を考えても、一人あたり10〜20ポンドはチップで出していたんじゃないかなと…(お店を外からしか見たことがないので、予想の倍くらい人数が入る可能性も…)

まぁ、路上では無く店での話なので相場がそもそも違うのかも知れません。日本でもお店によってはチップで数万円渡してくる人もいますし…

いずれにせよ路上は単価が低いという予想が立ちますし、店舗でやったほうが効率が良いんじゃないかと思います。

チップを貰う絶対条件

演技の価値

金を払う価値のある演技が絶対条件です。少なくとも、相手が「見てよかった」と思えるレベルである必要があります。

フラッシュは論外。

難易度よりも完成度を優先すべきであるのは間違いありません。マジックは別に難易度を競うスポーツではありませんし、相手が気持ちよく見れることが最優先です。チップを貰いたい場合は。

演者の価値

ボロボロの服を着たマジシャンが面白いのかよく分からない演技をして、チップを要求してきたらドン引きしませんか?

言い方は悪いですが…申し訳程度の芸を見せてお金を集めている物乞いと大差ありません。むしろ物乞いのほうがマシなレベルです(説明が長いので理由は省略)。

サイズの合って無い(似合ってない)服、手入れのされていない指先…全て論外です。「トランプが汚くて引いた」って話もありますし、最低限清潔感のある見た目が必要です。チップが欲しいなら。

セールスとかの話でもワンランク上の服装と清潔感は非常に重視されています。

現金を出すことは苦痛である

人間は現金を払うことに苦痛を感じます。現代のマーケティング理論は、この苦痛を如何に減らすかの工夫であると言っても過言ではありません。

キャッシュレス決済は苦痛が低減するため、現金を使うよりも財布の紐が緩くなりますし、通販でやたら買ってしまうって気持ちが分かる人も少なくないはずです。

チップは基本的に現金であるため通販サイトやオンラインサービスよりも更に工夫が必要になります。

現金を出す苦痛を減らすか、気にしなくさせる手法が効果的だと考えられます。

例えば…

マジックマーケットに行くと散財してしまう方が多いかと思います。

これは次の3つの要素が考えられます:

  • 入場料を既に払っていること
  • 物を買う場であるという認識
  • 魅力的な商品

3つ目の魅力的な商品ってのは非常に大きなポイントですが、これは価値や魅力を知っているからこそでもありますね。

最初の2つについては、『影響力の武器』で言う所の「コミットメントと一貫性」という要素によります。既に入場料を払っているため、余計に「買うのが当たり前」という感覚や、或いは「買わないと損」といった感覚が働きやすくなります。

縁日で散財してしまう人も似たような感じかもしれません。

お金を使ったマジックはチップを貰いやすい?

お札を使ったマジックをした後にチップをもらった経験がある人が多くいると思います。

これは現金を借りる工程が、現金を支払うリハーサルになり、苦痛が低減したと考えられますし、「お金を出した」事実により一貫性が働いたとも考えられます。

これらのように、苦痛を低減させることがチップを貰うための基本戦略になります。

要点:チップを貰いやすくするには

  • 苦痛を超える価値を提供する
  • 現金を出す苦痛を低減させる

前者はものを売るときの基本で、良いものはそれだけ価値があり、価格が多少高くても買われます。

後者は広告の基本であり、今回のメインテーマになります。

チップを貰う戦略:苦痛を低減させる

キャッシュレス

現金を扱わなければ良い…と思ったのですが、日本はそこまでキャッシュレス決済が進んでいないので難しいですね(出落ち)

極端な例でいうと、現在の中華人民共和国ではQRコードを表示している物乞いも多くいます。

戦略の1つとして、チップを受け取る用のQRコードを用意しておくのはありなんじゃないかと…

考えさせないこと

苦痛を感じる原因は「考える」からです。マジックマーケットの例のように、お金を払うことが当然だと思うような環境や状態を作れば、現金を出すことの抵抗感が減ります。

既に述べた「コミットメントと一貫性」の法則がベースになっています。

ラベリング・テクニック

Twitterとかでもたまに見かける「私のフォロワーは民度が高い」みたいな発言がこれに含まれます。これを見た人は民度が高い所を証明しようという気持ちになります(勿論例外はいる)。

先に「あなたは○○な人だ」とラベリングをすることで、相手の行動に一貫性を持たせるテクニックになります。子供が良いことをしたらとにかく褒める、「いい子だから〇〇もできるよね?」というのもこれです(ちょっと適当)

なので、セリフに「あなたは今まであったなかでも特に素晴らしい観客です」などと予め褒めておくことで、「素晴らしい観客=チップ払う客」と少しでも相手が思ったのであればチップを貰える可能性が上がります。

これは、後に述べる社会的証明を利用したセリフと組合わせることもできます。

ちなみに、褒める際は具体例を挙げた方が効果的なのは言うまでもないかと思います。個人差はありますが、女性に向かって「かわいいね」と単に言うよりは、具体的なパーツを褒めた方が効果的って話はどこかで聞いたことがあるはずです。

フット・イン・ザ・ドア・テクニック

営業などで使われるテクニックの1つで、小さなお願いをして、それを了承してくれた人はその次の少し面倒なお願いも聞いてくれる可能性が高いといったものです。

確実に「イエス」と答えられそうな小さいお願いを繰り返す「イエス・セット」と同系統のテクニックです。

ちなみに、これは観客の行動を抑制する方法としても使えるので、指示以外の行動をされたくない人は、最初に軽いお願いをして、それを実行してもらうと多少改善されます。

例えば:

  • 立っていれば半歩前に出てもらう
  • 何かを考えてもらう
  • 手を伸ばしたり曲げたりしてもらう

レナート・グリーン氏が最初に観客参加型のゲームをしたり、手のひらの向きが変わる遊びをするのも実に理にかなっているわけです。

これをすることで、後に観客をステージ上げやすくなりますし、協力的になってくれやすくなります。

社会的証明を利用する

希少性や不便さを敢えて用意する

希少なものが欲しくなるのは人間の性質ですが、ここでいう希少性はちょっと違います。

人間的な希少性に訴えかけます。「大多数の人は本を読みません。なので、本を読むだけで大多数の人よりも優位に立てます」みたいな感じですね。
※スクリプトは適当

やや強引な言い方をするのであれば、「少数派の優れた人物でありたいですか?それとも大多数の愚者でありたいですか?」と問いかけているわけです。

そこでチップを払う人が少数派であり、芸術に対する理解と行動がある人」であると宣言することで、自分の意識の高さを知っている人はそれを周囲に対して証明すべくチップを投入する流れになります。
※重ねて言いますが、これはあくまでも確率を上げる方法です。
※僅かにでも価値が感じられないほどつまらない演技だと成立しません。

何もしない選択を与える

  • 見た人はチップを払って下さい
  • 面白ければ払って下さい
  • 見ているだけでも結構です

どれが一番見る人にプレッシャーを与えないかって話です。払う必要性が全く無いと説明することで、相手を巻き込みやすくなります。7日間の返金保証や無料サンプルなんかもこの戦略の範疇のはずです…

アンケートでは無回答という項目を用意するだけで投票率が上がったなんて話もあります。チップの話に絡めるのであれば、リスクが無いことを予め知ってもらうと有効なんじゃないですかね?

社会的証明をまとめると…

「日本ではチップを支払う文化はありませんが、一部の理解のある人、芸術や凄さが理解できる人からチップを頂くことがあります。もちろん、ただ見て楽しんでいただけるだけでも十分なので、最後まで安心して見て下さい。」的なセリフを言うことで、心理的に揺さぶることができます。

※適当に考えたスクリプトです

自分で書いておいてアレですが…こう言ってる人がいたなら殴りたくなりますね!

この手の手法は、演技のクオリティがある程度高くないと成立しません。むしろ、無価値だと思われるレベルのものを見せると逆効果になります。

吊り橋効果みたいに、嫌悪感を持たれている場合は逆効果になるってほどではありませんが、ある程度の信頼関係を築けていないと、どんな心理的な手法を使っても効果は出ません。

清潔感のある嫌悪の対象にならない絶対条件をまず満たす必要があります。

リハーサルをさせる

苦痛を低減させるために、効果のある方法としてリハーサルが挙げられます。

現金を使った現象を含める

お金を出している所を想像させるだけでも効果はあると言われていますが、マジックでは現象的にお金を借りることが出来る独特の強みがあります。

観客からお札などを借りたマジックをすることは、チップを貰うのに効果があると推測されます。これは、フット・イン・ザ・ドア・テクニックの取っ掛かりとしても使えますし、他のあらゆる広告手法や芸よりもマジックが優れている唯一の部分だと私は考えています。

サクラを使う

使いたがる人がどれだけいるかは分かりませんが、実演販売で使われるくらいに効果的です。

特に日本人の多くはチップの払い方を知りません。「チップを渡したい」と思ったとしても渡し方が分からないために躊躇する人が少なからずいると考えられます。そういった人たちに模範を示すことがリハーサルになり、機会損失を防ぐことにも繋がります。

また、心理学で言う所の「応諾と服従」に少数派の影響というものがありまして…実験の参加者3〜4人に対して1人の割合で協力者を混ぜると、意思決定に影響が出るそうです。

つまり、3人のサクラを予め用意しておけば、12人の観客をコントロールできる可能性があります(ステージ催眠でよく使われる手でもありますね…)

まとめ

思ったより長くなったので、この辺でやめておきます…

こういう話は専門的な本を読んだほうが確実ですし、気になる方は色々と自分で調べてみて下さい。1つの投稿でまとめるのは流石に無理です…(セリフに含めるべきではないワードとか、没個性化を目指した方が行動は大胆になるとか…長くなりそうなのを色々と端折ってます)

ちなみに、これらの要素ってメンタリズムやステージ催眠の演出でよく使われる要素でもあります。私は催眠誘導をする際にこれらの要素を考慮してスクリプトを組んだり、クライアントへの態度や扱い方を決めています。

繰り返しになりますが…私はチップを貰いに行かないため、これらの手法が実際に使えるかは分かりません。

個人的な考えとして、「チップは結果的に貰えるもので、敢えて狙いに行く必要はない」ってのがあるため、チップを貰いに行くこと自体を推奨していません。

最後にルーク・ジャーメイの言葉を置いておきます。

ヘタな演技をするならばギャラを期待しないことだ

ロバート・B・チャルディーニ (著), 社会行動研究会 (翻訳)

スーザン・ノーレン・ホークセマ (著), バーバラ・フレデリックソン (著), & 3 その他