もう少し早くこの情報を出すつもりが、すっかり遅くなりました。

マジシャンのフライヤーの出来栄えがあまり良くないのは、マジシャン自身がよく知るところだと思います(極少数ですが良いモノもあります)。

そして、これはプロが作っていないから当然!ということではなく、そもそもフライヤーとして最低限の形をなしていないケースが多々あります。

今回は、フライヤー製作の基礎の基礎であり、これが出来ていないから迷走するんだ!と言える基礎、情報の整理について紹介します。

なお、情報の整理は、フライヤー製作に限らず、何かをデザインをする上で必ずやるべきことです。

情報の整理

情報の整理とは何でしょうか?

これは文章を作るときとほとんど同じと言えます。文章を書く際には5W1Hを意識すべきだと学校で習った人もいるかも知れません。フライヤーのデザインでも全く同じことが言えます。

フライヤー製作に関わらず、デザインをする際に確認すべきことは以下の通りです。

  • いつ
  • 誰が
  • どこで
  • 何を
  • どのように
  • 目的
  • 結果

これらの情報を元にコンセプトが決まる、あるいはコンセプトによってこれらの要素を決めていきます。

いつ・どこで

これに関しては言うまでもありませんが、日時と場所は大事な項目です。

「マジシャンのフライヤー、場所を都道府県から書かないよね。どこでやってるのか分からない」とか「興味あるけど調べたら、遠くて行けないことがわかった」などの意見を聞くことがよくあります。

誰が

これは主催者の情報だけでなく、ターゲットの設定も含まれます。

例えば、「メインの客層が成人男性」のイベントを行うとします。ところが、フライヤーの構成が「女性向け」だったり「子供あるいは老人向け」だったらどうなるでしょうか?

本来ほしい客層に強く訴えかけられず、思ったより集客が伸びない、なんてことが起こりえます。
最初からそのイベントに大して強い興味を持っている層は気にしないかも知れませんが、行くかどうかで悩んでいる層は、宣伝の印象によっては足が遠のくことがあります。

非マジシャンの知人から「マジックのショーを見に行きたいけど、マジックやってない人が見に行って良いのか分からない」と言う話もよく聞きます。これも結局は意図的かどうかに関わらず、コアターゲットがマジシャン限定であるイベントに見えているからです(「マジックに興味のある方歓迎」「初心者歓迎」「マジックやらない人でも楽しめます」など、簡単に書くだけでも幾分か改善されるはずです)

ショーとレクチャーを同時に行うイベントは、最初から非マジシャンやマジック初心者を相手にしていないとも言えるので、非マジシャンをターゲットにしない作りをした方が集まりが良い可能性がありますね。

何を・どのように・目的

特に何をするか、目的は何か、は最重要項目です。

マジックショーなのか、レクチャーなのか、それを行う目的は何か。この情報を最も強調すべきなのですが、ひと目で何をするのか分からないフライヤーが多くあります。

最近見たフライヤーでは、表面のどこにもマジックと書かれていないものもありました。十分に知名度のあるイベントであれば問題ありませんが、そうではない場合、その団体の活動を既に知っている人、身内以外を呼ぶ気が無いと言えます(製作者の意図に関わらず)。

 

繰り返しになりますが、目的の設定は最重要項目です。

やりたいこと、伝えたいことがあるからフライヤーなどを作るので、目的の設定が甘い、もしくは強調されていないフライヤーは、そもそもフライヤーとしての意味がありません。

結果

この結果は主にキャッチコピーを作る時に考えられます。このイベントに参加することで、参加者にはどういう得があるのか等、参加したいと思わせるための煽り文として機能します。

少し適当ですが「世界最高峰のマジックが身近で見れる」「レクチャーに参加することで、(具体的な)知識や技術が身につく」などがありますね。

 

特にレクチャー系では、この結果に当たる部分が大事で、これをしっかり想定しないと中途半端な宣伝になります。

ネームバリューで人が集まる場合を除き、具体的に結果を示さないと参加者の興味を引くのは難しいです。

 

なお、レクチャー内容を特に書かなくても人を集めることができる人にありがちですが、プロフィール欄が大きいか情報を詰めすぎってケースを良く見かけます。具体的な内容を知らずとも人数が集まる人は参加者に既に認知されているため、出演歴や受賞歴を長々と書くのは意味があるとは言えません…

逆に、マジック初心者などでネームバリューが分からない人をターゲットにする場合は、具体的なレクチャー内容とレクチャラーの背景をきっちり書いたほうが良いと言えます。

情報の配置

情報整理が終わると、次はレイアウトを決めるのですが、全てを話すと長くなるので、情報の取扱いに関する部分を書いていきます。

情報の優先順位と強弱

いつ・誰が・どこで・何を・どのように・目的・結果、これらの項目を決めると、自然と優先順位が生まれます。

それに従い、フライヤーのデザインやレイアウトが決まります。

この優先順位がはっきりしないからこそ、レイアウトや見た目が迷子になるわけで、そして優先順位が決まらないのは、情報の整理をしていないからです。

 

情報の整理をすれば自ずと優先順位が生まれます。一般的には以下の順番になります。

・目的(やること、伝えたいこと)

・日時や会場、結果(宣伝文)

・詳細や補足事項など

もちろん、例外はありますが、この設定をしっかり反映するだけでもフライヤーはある程度の出来栄えになります。

優先度が高い情報は大きく、低い情報は小さく書くだけでもメリハリがうまれ、見やすいフライヤーになります。
(大きさを変える以外の方法でも強調はできますが、長くなるので省略)

 

更に言うと、文章のように見出し・小見出し・本文の順で書くと見やすくなります。

情報のグループ化

優先順位と同じくらい、これも重要な要素です。

例えば以下に、カレーを作る際に必要な物を書き出します。

包丁、人参、鍋、油、ヘラ、カレー粉、まな板、ピーラー、肉、お玉、玉ねぎ、バター、塩、じゃがいも、胡椒、その他スパイス…

どうですか?見にくいですよね?これがグループ化されていない状態です。

次のようにするとどうでしょう?

包丁、ピーラー、まな板、鍋、お玉、油、バター、肉、人参、玉ねぎ、じゃがいも、カレー粉、塩、胡椒、その他スパイス

近い要素をまとめて書くだけでも多少まともになります。

 

そして、もう少し工夫するのであれば…

包丁、ピーラー、まな板、

鍋、ヘラ、お玉、

肉、人参、玉ねぎ、じゃがいも、

カレー粉、塩、胡椒、その他スパイス

バター、油

少し場所を取りますが、要素ごとにグループを作り、少し離して表示するだけでかなり見やすくなります。

これがグループ化と呼ばれるものです。

ゲシュタルトの法則、接近効果とも呼ばれ、人は近くにあるものを同じ要素、遠くにあるものを関係のない要素として判断する性質があります。

この性質を利用し、同一要素を近くに置くことで、すばやく読ませることができるので、デザインの殆でこの手法が使われています。

 

他の例を挙げると…(クリックすると拡大されます)

グループ化されていない例では、写真の上にそれぞれの都市名を書く必要があり、下の説明でもまた都市名が出てくるため無駄があります。また、これは情報量が少ないためグループ化されていない情報でもある程度は見やすくなっていますが、通常の情報量が多い媒体に組み込むと非常に読み難くなります。

名刺も、企業名・名前・連絡先は少し離して配置されていますよね?これもグループ化です。グループ化に関しては特に意識せずとも自然とやっている人は多いかと思います。

まとめ

情報の整理は、デザインの基本であり、最も大事なところです。

これらの要素が無い、或いは適切に配置されていないために、マジシャンのフライヤーの多くが既に内容を知っている人向けで、「新しいお客さんを呼ぶ気が無い」と感じられる原因です。

意図的にそう作っていないにせよ、基本情報が欠落していたり、コアターゲットの設定がなされていないため、初めて参加する人にとって分かりにくい構成になってしまっています。

 

繰り返しになりますが、情報の整理はデザインをする上で最も大事な部分です。それが終わってからようやく、一般的にイメージされる「デザイン」の作業工程が始まります。

デザイン製作の流れは以下の通りです。

  • 情報の整理
  • レイアウト(版面の設定、グリッドの設定、グループ化、強弱の設定)
  • 配色
  • フォント選び
  • 情報の図式化

つまり、情報の整理が出来ていない状態でデザインをするのは不可能です。

 

そして、この情報の整理はデザイナーでなくともできますし、デザイナーが本当に必要になるのは情報整理が終わって作るものが決まってからです。

だからこそ以前の投稿でデザイナーから「作りたいものや、その方向性が分かっていない状態で依頼してこないでね♪」と言う発言がでてくるわけです。(ちなみに、これは筆者により誇張、歪曲された表現で本人はかなり丁寧な言い方をしていますが、本質的には同じ意味です)

補足:義務教育で習う可能性について

今回の投稿も基本的に私1人で書いています。一応デザイナーに内容のチェックをしてもらっているものの、ほとんどが元から保有していた知識をベースに書いています。

というのも、情報の整理グループ化などの用語はデザインの勉強してから知りましたが、やっている事自体は義務教育で習う程度のものだからです。

小学校、中学校の壁新聞やプレゼンを作る授業で、使われていた言葉は違いますが同じことを聞いていますし、視線誘導などレイアウトの基礎についても一通り習った記憶があります。

今の所、周りの人に聞いた限りではほぼ全員が習った記憶があると答えていました。

つまり、フライヤーの不出来さは日本人には簡単に伝わってしまう可能性が高いということです。しかも日本で電車移動が多い人は、車内でプロが作った広告を日常的に目にしていますし、ウェブ上でも企業が資金をかけて作った広告が多数存在しています。

日常的にプロがデザインした広告や製品を見ている現代人が、できの悪いモノをダサいと思うのは正常な反応だと言えます。

私がよくするマーケティングの話で「最近の消費者は馬鹿じゃない」ってのはここにも当てはまります。

義務教育で習ったことすら反映できていないフライヤーに「日本一」「世界一」なんて煽り文がついていたとしても、それはただのギャグにしか見えないのでは無いでしょうか?煽り文が真実であったとしても、それを知らない人には伝わりません。

最後に

情報の整理について話しました。これは最低限のことで、マジックで言うと解説の前にある「準備」と同じです。
準備したからと言って、そのマジックが出来るとは限らないように、デザインをするまでには他にも必要な技能や感覚があります。

また、今度のマジケでフライヤーの改善点を提示するサービスをする予定ですが、反映はほぼ不可能だと予想しています。これは、コインマジックのルーティンを文章だけで説明するようなもので、知識が増えたからと言って出来るかは別問題だからです。
(それならやる意味無いのでは?という意見もありそうですが、知っているのと知らないのとでは大違いです)

初心者は身の丈に合わない技術に走るより、基礎をしっかり押さえた堅実なモノを作るべきです。

フラッシュしまくりの雑なルーティンよりも、地味だけどきっちり不思議なセルフワーキングのほうが受けが良いのと同じです。

今回の内容が堅実なフライヤー製作の第一歩になることを願っています。

 

最後の最後に私のちょっとした願望ですが…

最高クラスの人には、そのクラスに見合うフライヤーを使って欲しいです。

最高クラスの人が最低限の水準すら満たせていないフライヤーを出して、それが一般人の目に映るのはリスクでしかありません。フライヤー1枚の印象だけで「これがマジック界の最高クラス?本当に?」なんて思われるのは、マジックの価値そのものの危機だと思っています。

逆に言うと「世界一」や「日本一」、「最高」なんて文言が使われないのであれば、どんなにダサくても問題無いとも考えています(ぉぃ)

地位にふさわしい外見、服装をするのと同じで、これは一般常識から外れていないはずです。