催眠術の嘘と欺瞞

堅苦しいタイトルにしていますが、内容はかなりライトです(゚∀゚)

最近とある懇親会で、少しだけ催眠術の話題が出たのですが、毎回似たような質問があるのでここで軽くまとめてしまおうかと!

毎回答える手間を省きたいだけとも言えます(ぉぃ)

催眠術の嘘

催眠術で意識が落ちる

落ちたように見えるだけと言えます。意識がなければ術者の指示を聞くことができません。

なお、意識レベル自体は落ちるのは間違いはないので、「意識が落ちる」の言い回しは完全に間違いではありませんが、恐らくこれを聞いた人は「完全に意識が落ちた状態」をイメージしていると思われるため、それは真実では無いと説明しています。

催眠術で眠る

ジェームズ・ブレイドという歯科医が被験者の眠っているような状態を見て、眠りの女神ヒュプノスから「催眠術」(Hypnosis)と名付けましたが、実際には眠りません。本人も「催眠術(Hypnosis)」の命名を撤回していますが、すでに定着してしまったため、現在に至るまで「催眠術」と呼ばれています。

なお、催眠術で眠ることはありませんが、催眠術中に眠ることはあります。

催眠術によるリラックス効果で結果的に眠ってしまうことはあります。美容院やマッサージで眠ってしまう様なもので、もちろん「ヘアスタイルで眠る」、「マッサージで眠る」なんて言い回しはされません。どちらも「ヘアスタイル中に眠ってしまう」、「マッサージ中に眠ってしまう」と結果論的な言い回しになるはずです。

催眠術で記憶がなくなる

特定の事象や単語を忘れさせる暗示は、正確に言うのであれば「忘れる」ではなく「思い出しにくくなる」或いは「思い至らなくさせる」です。

つまり、催眠術によって完全に記憶がなくなることはなく、本人が思い出そうとすればいつでも思い出すことができます。催眠術中、或いは催眠後に特定の何かを忘れたように振る舞うのは、その情報がその環境で思い出す必要が無いからです。必要になれば大した努力も必要とせずサクッと思い出します。

ついでに補足するのであれば、記憶喪失、健忘も実はほぼ全てが心因性です。時々、頭に強い衝撃を受けて記憶が飛ぶ…みたいな話を聞きますが、この場合は脳の損傷で不可逆、つまり飛んだ記憶は戻りません。そしてこの場合はごく少数です。

繰り返しになりますが、記憶が戻るタイプの記憶喪失は心因性であるため、フィクションでよく見られる「もう一度頭部に衝撃を与えたら記憶が戻る」なんてことはあり得ません。そして記憶がなくなるレベルのトラウマがあるため、フィクションで見られる記憶を失った美少女はかなり深い闇を抱えていると言えます(何の話だ)。なので、万が一記憶喪失の人を見かけても無理に記憶を引き出そうとするのは良くないと言えます。思い出さないことで精神の安定を図っているのに、無理やり思い出させるのはとどめを刺すようなものです。

逆に言うと、催眠術を受けて記憶がなくなり、その後も全く思い出せない人がいたら、催眠術中にトラウマレベルの何かがあったと考えてもおかしくありません。或いは何もなさ過ぎて思い出す必要が無かったかのどちらかとも言えます。

催眠術で忘れていたことを思い出す

半分ウソ。

後退催眠で昔あったことを思い出す、なんて描写が時々フィクションの世界でも見受けられます。

実際には(アメリカなどでは)催眠で思い出した記憶は証拠に成りません。何故かと言うと、後退催眠で思い出された記憶は、後から整合性を取るために作られた疑似記憶、捏造された記憶である可能性が十分に含まれるためです。ただ、一部は本当の記憶もあるため、完全な嘘とは言えませんが、真実と嘘が混ざってしまう可能性が高く、証拠としては使えないとされています。

ドラマの『メンタリスト』で主人公のパトリック・ジェーンが催眠術を使うたびに、テレサ・リズボン(同僚、チームリーダー)から「催眠術使ったでしょ!」と怒られているのはそのためです(米国だと違法捜査って理由もあります)。

催眠術は単純な人が掛かりやすい

言われた言葉に対して、瞬時にイメージを作れる人が掛かりやすいと言えます。

掛かりやすさは集中力と想像力、それと術者との関係性によって決まるため、単純だから掛かりやすいという言い回しは正確ではありません。ただ、順応性が高い人が掛かりやすい傾向があるのも事実ですが、このタイプの人を「単純な人」と呼ぶかどうかは分かりません。

催眠術で洗脳できる

1940年代か50年代…だったかで、CIAが催眠術の軍事利用について研究していた時期がありました。

具体的な研究内容はうろ覚えですが、敵国のスパイを催眠術で寝返らせ二重スパイにする云々で、結果は「不可能」だったとか。本来予定されていた研究期間の途中で打ち切りになったと言われています。

ただ、洗脳と催眠術は程度の差だとも考えられるため、似たようなものってイメージも間違いでは無いかも知れません。洗脳レベルで催眠術を行使する場合、時間や手間を考えると、それは最早「洗脳」そのものとも言えます。軍事利用するにはコスト(時間や手間)が掛かりすぎるため、研究が打ち切りになったのかも知れません(敵国のスパイを数ヶ月〜数年単位で拘束した後に開放するのは怪しすぎますw)

一般的(?)な催眠術の手順程度であれば洗脳されることはほぼ無いです。

催眠術で人を殺せる/殺せない

一応、催眠術で人を殺すことは出来ない、或いは殺人を指示することは出来ない、と言われていますが…結果的に殺さなかっただけ、とも取られています。

テストコンディションにおいて被験者が「術者が実際に人を殺す指示を出すはずがない」、「実際に殺してほしいと願っているわけではない」と思っていることが原因である可能性があるとか何とか…

なお、Netflixで公開されているダレン・ブラウンの『ザ・プッシュ』では、擬似的とは言え、環境を整えることで人を殺人に至らせることに成功しています(正確には成功するパターンがあるのですが、詳しくは番組を見てください)。しかも初対面の相手を僅か1日でです。

つまり、社会的圧力で殺人を犯すような人であれば、不可能とは言い切れません。

催眠術で犯した罪は法的に裁けない

強要罪、教唆罪で裁けます。

強要罪に関しては日本で既に判例があったと思います。

なお教唆は実行犯と同じ扱いになるため、殺人であれば重罪になりますね。

催眠術で鬱や睡眠障害が治る

鬱は悪化する可能性が高いという報告があります。

睡眠障害は心因性の入眠障害であれば改善する可能性があります。

いずれにせよ催眠術がベストな選択である状況は少ないと言えます。。精神科で催眠療法があまり使われないのは、効果的だというエビデンスが不足している上に、逆効果であるとの報告があるからです。治療と称して催眠術をやる人がいたら、その人の背景や専門、資格を確認してください。医師など国家資格か、臨床心理士など取得が非常に難しい民間資格を保有していない限りは、心を預けるべきではないと考えています。催眠術が原因で精神障害が起きることもあります。

解除暗示は必須

催眠術を解くために催眠術を掛けることになるので、ある意味矛盾しています。

ただし、「まだ掛かってるかも?」と不安になる人は効果が長く続きやすいことがあるため、その様な人をケアするためにも解除暗示の手順を入れたほうが良いと言えます(このパターンは感受性の高い未成年者や不安症の方に見かけます。事前に聞き取りなどして、催眠後に不都合が出そうな人には掛けない選択肢を持つことが重要です)

解除暗示には決まった手順はなく、相手が「解けた」とさえ感じるものであれば、どんな文言でも仕草や合図でも問題ありません。

結論

催眠術って全く使えないんですよね!それこそ娯楽でちょっとしたパフォーマンスに使う程度くらいしか使い道が無い気がしています。

現代的な催眠術の考えでは、そもそも催眠状態の存在すら否定されかかっていますし、心理療法でも催眠術が使われることは滅多にありません。というよりは、心理療法で使われている技術の一部と、催眠術で起こる現象には明確な線引が出来ないものもあります。つまり「催眠術で治療!」って言うこと自体が既に時代に取り残されている感じがするわけです。

最近はダレン・ブラウンが催眠術を使うことが少なく、殆どが催眠術風のトリックであるのもそのためなんじゃないかなと思っています(゚∀゚)

そもそも催眠術の定義が無い問題

現在の催眠に関する定義(2015年)を基に考えると、催眠(hypnosis)は状態と定義されているため、手法や手順の意味が含まれなくなりました。催眠に至らせる行為は「催眠誘導」と説明され、それ以前にあった「催眠術」については言及がなくなりました。

現在の定義において「催眠術」は存在しないことになります。

つまり、「催眠術ができる」と言っている人たちは、定義されていない謎の術を使っていることになるだけでなく、最新の定義を知らないことからも勉強不足、知識不足を自ら露呈してしまっていることになります。プロフィールに「催眠術」や「催眠術ができます」なんて書いてあったら、とりあえず知識不足を疑った方が良いかも知れません…(定義を知らないレベルで不勉強な人は現代的な研究も知らないわけで…催眠誘導スキルも低い可能性があります)

個人的な意見としては催眠術師という名称も現在の定義的には不適切なので、催眠誘導士と名乗った方が良いんじゃないかと思います。その理由を共に語ればラポール形成に有利になりますしね?


マインド・クラス向けコンテンツです

会員クラスが「マインド」或いは「ラボメン」の方のみ閲覧ができます。

関連記事

コメント

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。